ローゼンブラックのさらなるつぶやき

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雷対策の話(避雷針編)

多忙ゆえにいわゆる雷の多い時期からだいぶ遠くなってしまいましたがお久しぶりです。さてさて、前々回あたりに予告した通り、今回は避雷針について考察して行こうと思います。

 

落雷のおさらい

避雷針の話に入る前に、少し一般的な落雷について軽くおさらいしましょう。詳しいことは 「雷のしくみ」のページにありますが、少し軽く説明すると、雷は一方的なものではなく、地上との相互関係で成立すると言う話があったように、落雷は雲から地面にめがけて降り注ぐ放電(ステップリーダ)と、地面から上空に向かう放電(ストリーマ)の2つが結合して放電路ができ、その放電路に大量の電荷が流れる現象です。つまり、落雷が地面からの放電についても同時に成立しなければならないと言うことは、地上にいる我々が落雷回避のための対策が取れるということになるわけですね。

 

避雷針の役割

避雷針はこのストリーマをうまく活用したものになります。雷撃をあえてこの針に誘導させて雷電流を大地に流すことによって例えば建物への落雷による被害を防ぐことができます。正直、名前が「避雷針」よりも「導雷針」と言った名前のがお似合いかと思われます。

ここで、なぜ「針」なのかっていう理由を簡単に説明すると、もちろん敢えてその場所に放電しやすいからです。実は放電の種類で、電界が不平等だと局部的に放電が起こるというコロナ放電というものがあります。そこで、針状にすることで、上空までの電界が不平等になるので放電が起きやすくなるというわけです。 

 

避雷針の重要な性能

もちろん、落雷という大電圧でかつ予測のつかない自然現象を防ぐのには避雷針の構造が高性能であることが必要です。そこで具体的に必要な性能をご紹介します。

①雷に対する耐圧や電流の大きさ

もちろんこれは、避雷針が雷に当たっても破壊されないためにも重要なパラメータとなっていきます。

②高さや設置位置

おそらく、避雷針を設置する上で最も重要になってくるかと思われます。避雷針の高さが高いほど、保護範囲を広く取る事ができるということを示しています。設置位置についても、例えば引火性物質を取り扱うところでは爆発して火災が発生したり、電子機器を多く扱うところでは機器が動かなくなったらなどの副作用が大きくなってしまうのでプラスアルファの避雷対策が必要ですね。

 

保護範囲を見積もる方法

当初は下の図のように、避雷針の高さhとその先端を通る鉛直線と保護範囲を見込む角保護角θで計算していました。

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しかし、これでは信頼性が薄く、最近ではさらに下の図の回転球体法を用いて行われています。つまり、初めから雷撃距離rを大地と1つまたは2つ以上の避雷針とに接するような回転球体を考えて、その球体表面から被保護物側を保護範囲とする方法です。

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このとき、雷撃距離Rは雷電流Iを次の式を用いて現すことができます。

R=kI^n

ここで、kは定数でおそらく避雷器それぞれ固有の素材に依存したものとなります。nはおよそ0.5〜0.8の値を取ります。雷電流は通常数kA〜200kA程度の範囲に分布するので、Rはおよそ30〜400mの広範囲に及ぶので一定に決められないので、保護範囲は100%の保証はできないということになってしまいます。

 

特別な避雷針

これまで紹介してきた通常の避雷針と少し違ったものが最近開発されています。それが落雷抑制システムズという会社らが開発しているPDCE避雷針です。相違点を簡単に申し上げると、こちらは雷自体を極力落としにくくし、有効範囲での雷電流による被害を完全に抑えるという仕組みになっております。

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構造的には、半球状の電極を上下に配置して、その間を円筒形の絶縁物を用いて固定したものとなっています。円筒形の内側に電極が突出し、少しのエアギャップを隔てて向かい合った構造になっています。下の電極は接地されているのでプラス電荷が貯まります。このとき、静電誘導により、上部電極はマイナスになります。雷雲の下部や雨粒も同じマイナス電荷を帯びるているので、通常起こるお迎え放電を防げるわけです。要するに、地上からの帯電の極性を制御することによって落雷を抑えられているということですね。

 

おわりに

前々回に引き続いて雷対策について書いてきましたが、こうして見ると、高度情報化社会が進むと最大の天敵は地震や今回の雷を初めとする自然災害ということがわかりますね。自然災害というものはどんなに知恵を振り絞って頑張ったとしてもやはり完全には防げないものです。ただ私は、完全に近似できるくらいの自然災害対策技術がこれから次々と生み出されていくのを楽しみにしています。

 

次は何書こうかな?

 

参考文献

電気書院電気計算2016年8月号」(最後の図はここから引用)

・電気学会「高電圧工学」(保護範囲を見積もる方法の2つの図はここから引用)

オーム社「大学課程 高電圧工学」